父の死が教えてくれたこと

父の死が教えてくれたこと

父の死が教えてくれたこと


2年前、梅田さんは自身の父親を膵がんで亡くした。下痢や背部の痛みがあっても受診を渋っていた父親が、やっと受診して検査を受けた結果、膵がんと判明。すでに抗がん剤が使えないほど全身状態が悪化し、意識も朦朧としていたが、がんであることを知ると、病院ではなく家で過ごしたいと、はっきり意志を伝えた。
それは、娘である梅田さんから、家で亡くなった患者さんの話やがんという病気のことを、それまでに幾度となく聞いていたため、イメージがしやすかったからかもしれない。
亡くなる前日までお風呂にも入り、トイレで排泄をし、痛みどめも最低限の量しか使わずに、穏やかに最後の日を迎えた。がんとわかってから2カ月後のことで、その間、梅田さんはずっとそばにいられたわけではなく、実家のある京都と東京を行ったり来たりして看護をしながら、他の家族に病状やこれからのことを説明することにも多くの時間を費やした。

その経験は梅田さんにとって大事な気づきを与えてくれた。一つは、もし患者さんが家で最期を過ごしたいと思うなら、「病気と向き合えるよう家族を支える」ということ。
「患者さん自身は弱っていくことを体で感じ、悟る部分があるのですが、周りの家族が怖がって、弱っていく体を放っておけないということがあるのです。患者さんも含めて、変化していく体を受け止められるように、これから起こることについて前もって話をしたり、薬でできることを伝えたり、身体が楽になる体勢を教えるなど、看護師だからできることがもっとあることを再確認しました」

もう一つは、病気を受け入れているように見える患者さんでも、自身の病状を常に直視していたいわけではないということ。梅田さんの父親は、がんという病名も、治癒が難しいことも理解していたものの、「『がん』とか『治らない』とか繰り返し説明しないでほしい」と言っていたという。
「そう言われた時に、今まで患者さんに病気のことを理解してもらおうと、何度も話をしていたことを思い出し、ひどいことをしていたなと反省しました」

父の死が教えてくれたこと

看護師としての気づきを与えてくれた父の死は、同時に自信も与えてくれた。
「父が望んでいたように家で穏やかに看取れたことは、『患者さん本人の選択を支えるという、私の仕事の仕方は間違っていなかった』という父のメッセージのような気がしました。今後は、多くの人に、父のがんとの共存や希望する最期を支えることができた看護の力をもっと普遍的に伝えていきたいですね」

どこで過ごしたいか、どんな治療や生活を望むのか、人によって事情も価値観もさまざまだ。そして看護師は患者さんを安心させる技、納得した選択を支える技を持っている。そのことを看護師自身にもっと自覚してもらうとともに、一般の人にも伝えること。それが、梅田さんのこれからの目標だ。

(2014年3月)


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