最後まで残る絆は「人」
「患者さんに寄り添うというのは、ただ隣にいるだけでもなければ、患者さんが言うことを何でも受け入れることでもない。私の仕事は、その方が繋がれてい

る“鎖”を一つひとつ外すお手伝いすることだと思います」と、川越さんは言う。
会社や趣味のこと、目標、お金、友人、病院医療――。人は生きていくなかで、知らず知らずのうちにいろいろな“鎖”に繋がれている。そうやってがんじがらめになっている患者さんをそのまま受け入れるのではなく、必要のない“鎖”を一つひとつ外していくことが、死を前にした患者さんに対する最大のケアだ。
ただし、それでも残る“鎖”がある。それは、「人」と川越さんは言う。もっと言えば、多くの場合は、家族だ。
40代で亡くなった乳がんの患者さんは、ある日、カレンダーのある日付を指さして「私はここから先はいないから」とご主人に告げた。そして、その日が近づくにつれて日に日に体調が悪くなり、いざ、その日を迎えた朝、こん睡状態に陥った。時計の針が夜の12時をまわった頃、ご主人は「酒を酌み交わしながら看取ろう」と、長男と二人、枕もとに座った。それから2時間ほどして、患者さんはすっと息を引き取られた。まるでちょっと微笑んでいるような、とても穏やかな表情の最期だったという。
大事な人と最期にそうした時間を持てるのが、家の良さだ。そして、家族がいない人であっても、やっぱり人と人との繋がりは最期まで残る。
「これまでに一人暮らしの方も300人ほど家で看取ってきました。なかには天涯孤独の方もいましたが、そうした方でもやっぱり人を求めます」
在宅ホスピスケアをはじめて25年、パリアンを立ち上げて15年。自分が理想とする形はできあがってきた。今の課題は、次の世代にいかにつなげるか、だ。
「在宅ホスピスは、カリスマ医師が引っ張っていく医療ではありません。チームが育って、チームが残ることが大事。ですから、私がいなくなってもチームがしっかり残るように、去り際を考えています」
実は先日、川越さんはテレビのドキュメンタリー番組の取材を受けた。これまでにもテレビの取材は何度も受けている。ただ、今までの主役は患者さんだったが、今回の主役は川越さん自身だ。「次の世代に向けていい遺言ができました(笑)」。川越さんのその笑顔が、今日も患者さんや家族の支えになっているのだろう。
(2014年9月)