初めて見た白血病患者さんの口腔内
初めて見た白血病患者さんの口腔内
岡山大学病院で、がん治療に歯科のチームが加わり、口腔ケアに力を入れるようになったのは2003年のこと。そして杉浦さん自身が加わったのは、2004年のことだ。当初は、「歯周病のエキスパートになりたい!」と思って、岡山大学の大学院の門(現岡山大学医歯薬学総合研究科の歯周病態学分野)をくぐった。そこで指導担当としてついてくれたのが、前述の歯科チームを率いる歯科医師だった。
「歯周病のエキスパートになろうと思って大学院に入ったのですが、最初に先生と訪問した先の病棟が、これから移植を受ける予定の白血病の患者さんが入院している病棟でした」
一般の病棟とは違い、免疫力が低下している患者さんは、感染を防ぐためにクリーンルームに入って治療を受けている。この病棟に入る前には、二重の扉(一つが閉まらないと次の扉は開かない仕組み)が存在する。患者さんに会うまでに、何回も手をしっかり洗って入室する。緊張しながら病室に入り、みせてもらった患者さんの口の中は、杉浦さんがこれまで見てきた口の中とはまったく違っていた。

「私たちは歯茎の色や粘膜、歯並びなどを瞬時にパッと見るんです。そのときに見させていただいた患者さん方の口の中は、口を開けていただくのも気の毒なくらいに口唇や粘膜が腫れていたり、乾燥していたり、傷ができていたり、思っていた以上でした。歯科チームが加わるようになって1年以上が経っていましたから、以前にくらべればよくなっていたそうですが、それでも、健康な方のお口の中とはまるっきり違っていました」
ただ、「大変な状態だ」ということはわかっても、「何が起きているのか」「どうケアをすればいいのか」、当時の杉浦さんにはわからなかったという。
「患者さんのお口の中を見た後、指導担当の先生から、『さっきの患者さんの口の中の白いところは何だと思う?』と聞かれたものの、『プラーク(細菌の塊)ですか?』としか答えられませんでした。悔しいけれど分からなかったんです。口の中の白いものはプラークだとしか___。今思えば、粘膜障害を起こしているか、あるいは、細菌の塊に、身体から出た浸出液などが混ざって粘膜に浮いていたんだと思います。痛みも相当おありだったでしょうから、お口の中を清掃するのがとても難しい状況になっていたのでしょう」。