やる気を高めるフォロー
移植や手術、放射線治療や化学療法に入る前に口の中をできるだけ清潔にしておき、粘膜も含めてよい状態に保つこと。そして、治療によって予測されるトラブルをできるだけ防ぐようなケア方法を身につけていただく。感染させないよう支援してゆくことがチームの役割だ。
歯科チームがかかわるようになって10年が経ち、杉浦さんが最初に見たような"大変な状態"の患者さんはほとんどいなくなった。
「口腔内の環境(欠けた歯や壊れたかぶせ物がないなど)が同じであれば、口の中に細菌が100匹いたとして、90匹まで減らせた人と、50匹まで減らせた人、30匹まで減らせた人を比べると、30匹まで減らしてから治療に入った人の方が、やっぱり粘膜のトラブルは少ないんです。治療開始の早い段階で、その方に合ったブラシ、操作方法を一緒に見つけながら、粘膜を傷つけずに細菌だけを上手に取るようなケアの仕方を患者さん自身に学んでいただいています。治療が始まって、一番抵抗力が下がるときに、上手にセルフケアできるよう提案していくのが歯科衛生士の仕事です」

粘膜を傷つけずに細菌だけを取るというのは、つまり、あまり力を入れすぎず、歯ブラシのしなりを利用して、歯茎のきわについている細菌の塊を毛先で掃除するということ。
"ゴシゴシ磨き"が好きという人には、力を入れないということが難しい。磨き方を教えた翌日に歯ブラシを見てみると、すっかり毛先が曲がり広がっている、ということも。
「患者さんのやり方をすべて否定することはしませんが、『今、適切かどうかというと、適切ではないと思う。その理由は・・・』を伝えています。治療中、ゴシゴシと磨いて歯茎を傷つけてしまい、もしもそこに細菌がまだ残っていたら、傷口から感染するかもしれません。がんの治療中というのは、個人差はありますが、それほど抵抗力が下がってしまう時期があるのです」
患者さんのなかには、実際に痛みや傷ができてからでなければ口腔ケアの重要性をわかってくれない人も稀にいる。
「看護師さんたちも、患者さんへのモチベーションを上げるよう一緒に協力して頑張ってくださるので、とても口腔衛生指導がやりやすい環境ですが、それでも『なぜ今、歯が関係するのか?』という反応を患者さんがされることも時にあります。『今までむし歯がなかったので、大丈夫』と自信をもっていらっしゃる患者さんもいますね。でも、がん治療中はというのは未知の世界なので、『いつも以上に口腔内を清潔にしておくことが大切なんですよ』ということをわかっていただけるよう、説明の仕方、コミュニケーションの取り方を工夫するようにこころがけています」。