医療へのアクセスを改善する取り組みの精査

支援プログラムから独立した効果測定が成功の鍵を握る

May 09, 2018

公衆衛生の専門家であるレイング教授が、アクセスプログラムから独立した効果測定がいかに成功を確かなものにするかを考察しています。

リチャード・レイング(Richard Laing)教授は、低所得国や中所得国のいまだ必須医薬品へのアクセスが難しい地域において人生の多くの時間を過ごし、より多くの患者さんに必要な医薬品が届くよう活動を続けてきました。米国ボストン大学公衆衛生学部の教授で、世界保健機関の元職員でもあるレイング教授は、医薬品へのアクセス改善に関する取り組みの多くが同じ弱点を持っていると指摘しています。それは、こうした取り組みがその効果に関する十分なエビデンスを集められていないという点です。

ノバルティスは、世界で最も貧しい国々に慢性疾患治療薬を低価格で提供するノバルティス・アクセスと呼ばれる画期的なプログラムを立ち上げた時、レイング教授に独立した研究としてその効果の測定を行うことを依頼しました。

ノバルティス・アクセスは、貧しい人々および社会の慢性疾患による負担の拡大に対処するための持続可能で経済的にも実現可能な事業となることを目指しています。低所得国および中所得国において、毎年約2,800万人もの人が慢性疾患により命を落としており、これは全世界の死者数の75%近くに及びます1

ノバルティス・アクセスは、心疾患、糖尿病、呼吸器疾患、乳がんに対する15種類の医薬品のポートフォリオから構成されており、低所得国の政府や公的機関に対し、1カ月分の治療薬を1種類当たり1米ドルで供給しています。

ケニアでプログラムが開始した当初、レイング教授は人々の医薬品へのアクセス状況を調査しました。この時の結果は、プログラムの効果を測定する際のベースラインとなっています。低所得国を対象としたこの種のプログラムでこのような厳密な調査が行なわれたのは初めてのことであり、ノバルティス・アクセスが今後数年間で最大30カ国において展開予定であることから、この調査結果が非常に重要になります。

最近実施されたインタビューにおいて、レイング教授はこの調査について、なぜこの調査がノバルティス・アクセスの成功にとって重要であるかについて語りました。

なぜノバルティス・アクセスのようなプログラムを評価することが必要なのでしょうか?

医薬品企業は、長年にわたり世界の最貧国に暮らす人々が医薬品を手に入れられるよう画期的なプログラムを実施してきました。しかしながら、こうした取り組みのほとんどは評価が行われないか、質の低い手法を使って評価されてきました。支援が必要な人たちに実際に効果が現れているかどうか、誰もわかっていなかったのです。

医薬品だけでなく、食品や燃料を含めた低価格での製品供給プログラムに関してひとつ言えることは、しばしばその恩恵を受けるのが最も貧しい人たちではなく、医薬品や適切な治療にアクセスする方法を知っている中所得者層であるという点です。この点から、各家庭レベルで、なかでも最も貧しい暮らしを送る家庭において何が起こっているかを知りたいと強く考えるようになりました。

ノバルティス・アクセスは、従来のプログラムのほとんどが感染症を対象としていたのと異なり、非感染性疾患に焦点を当てた重要な新しい取り組みです。きちんとした評価を行うことは、どのような活動が効果を示し、改善できるものが何であるかを理解するのに必要不可欠です。

プログラムの人々や社会への効果をどのように評価するのですか?

ノバルティス・アクセスの効果を無作為化比較対照試験により評価しています。ケニアの中のいくつかの郡が無作為に選ばれ、ノバルティスの医薬品の供給を受けます。医療機関で働く人々や非感染性疾患の患者さんにインタビューを行いました。1年後、そして2年間の調査期間の最後にも同じ人たちへのインタビューを行う予定です。

さらに、各医療機関に電話をし、どのような医薬品があり、いくらで購入したのかを調査しています。同様に、半数の家庭に電話をし、医療機関が申告している請求金額を実際に支払っているか、いくら分の医薬品を購入したのか、支払金額が各家庭の収入によりどのように異なるかを確認しています。

定期的な電話調査によりこうしたモニターを続けていきます。各医療機関で何が起こっているのか、1カ月間にどれぐらいの量の医薬品がいくらで各家庭に提供されているのかを知ることができます。ノバルティスや他の企業によってどのような医薬品が提供され、この取り組みの結果として供給される医薬品がどのように変化するのかを知るために供給側のモニターも行っていきます。

今の段階では人海戦術で調査を行っていますが、健全なプロセスを確立し、ノバルティス・アクセスが他の国々で開始される時に、よりシンプルでサンプル数の少ない形で評価が行われるようにしたいと考えています。

この評価システムを確立するにあたって、難しかった点は何ですか?

ノバルティス・アクセスには、異なる疾患、対象となる患者層、医薬品、薬が使われる環境など様々な要素があり、複雑です。さらに、非感染性疾患の治療は一生続くものであり、多くの患者さんはすでに治療を始めていて、プログラムの一環としてノバルティス・アクセスの医薬品に切り替えます。プログラムの効果を特定および測定し、必要な情報をすべて集めるのは複雑な作業を必要とします。

現地調査員と話すボストン大学のモニカ・オニャンゴ教授(Professor Monica Onyango)

この調査に参加する患者さんをどのように決めたのですか?

数千軒の家庭を訪問し、調査を行う患者さんを決定しました。無作為に選んだ家庭を一軒一軒回り、心血管疾患、糖尿病、乳がん、喘息の4つの非感染性疾患の診断および治療薬の処方を受けている人がいないか尋ねました。

ある郡では、訪れた家庭の最大30%にこれらの疾患の中のどれかひとつと診断され、治療を受けている人がいました。有病率の高いこうした地域では、1人の患者さんを見つけるのに3~4軒を訪問する必要がありました。しかしながら、ある郡の有病率が1.8%にまで下がったケニア北部および西部では、2,500軒訪問しても調査に必要な患者数を確保できませんでした。

患者さんの数にこれほどの差があることに驚きました。特定の地域における有病率の低さが、診断される機会の少なさによるものなのか、あるいはその住民の生活習慣によるものなのかは、分かりません。

ベースライン調査で分かったことは何ですか?

ベースライン調査については再確認を進めています。この調査の対象に選ばれた郡において、介入を行う郡と対照となる郡の間に有意差は認められませんでした。今後差異が認められた場合、それはノバルティス・アクセスによるものである可能性が高いです。また、貧困と医薬品に使う家計支出の比率に強い相関関係があることも明らかになりました。言い換えると、家計が貧しいほど医療費全体に占める医薬品への支出が多いということです。ノバルティス・アクセスは、社会で最も貧しい人々の支援に役立つと考えられることから、この結果はノバルティス・アクセスの重要性を強調するものとなりました。

アクセスプログラムの効果を測定するこれまでの取り組みと、今回の調査の違いは何ですか?

これまでの効果測定の取り組みは、企業がプロジェクトの終了時に評価の実施を決めており、ほぼすべてが終わった後に行われたものでした。こうした評価の問題点は、それを行う前の状況が分からないことです。また、対照群が設定されていない場合が多いので、最善の介入が行われていたとしても評価が低くなりがちなのです。こうした取り組みは、人々に医薬品を届けるという面ではすばらしいのですが、厳密な調査が行われなかったために効果を証明することが不可能だったのです。

この調査は、医療および医薬品へのアクセスを改善するための他の取り組みにどのように役立ちますか?

今回の評価で特に印象的だったのは、ノバルティスがすべての情報をオープンにするのに積極的だった点です。興味がある人なら誰でもこの手法を活用し、その結果を見られるように、すべての契約および手順はウェブサイトに掲載されており、データは準備ができ次第掲載していきます。すでに他の企業が訪ねてきて、同じような調査をしたいと言っています。ノバルティスは、すべてをオープンにして共有するアプローチに合意することにより、後に続く人たちへの基準を打ち立てたのです。

ノバルティス・アクセスに行っている評価のより長期的な影響には、どのようなものがありますか?

すべてが結果次第です。もし医薬品が医療機関に届いているのに、各家庭に届いていないことが分かれば、医療従事者に働きかけを行い、患者さんが高品質で低価格な医薬品を使えるようにしてもらわなければなりません。もし医薬品がより豊かな家庭に届き、より貧しい人々には届いていないことが分かれば、ノバルティス・アクセスは経済的状況がより厳しい地域での活動に力を入れなければなりません。

もし非感染性疾患の啓発、なかでも有病率が非常に低いケニアの一部の郡での疾患啓発が目的であれば、これはまた違った話になります。これが診断機会の少なさによるものなのか、健康的な生活習慣によるものなのかを知るためにさらなる調査が必要となるでしょう。地域の啓発を行うのであれば、それを行う前に人々が何を知っていたのか、啓発や活動の結果として人々の行動がどう変わったのかを立証するために、ベースラインのデータを持っている必要があるという考えを全面的に支持しています。

ノバルティス・アクセスは、このような評価から得られた結果を考慮してやり方を変えることができ、次にこのプログラムを実施する国においてはより効果的な運営を行うことができるようになります。そして、他の企業もこうした教訓から学び、自社のプログラムに活用してもらいたいと考えています。

さらに知りたい方は、こちらをご覧下さい http://sites.bu.edu/evaluatingaccess-novartisaccess(英語)

ノバルティス・アクセス

低所得国および中所得国における非感染性疾患(NCDs)の患者数は、今後20年間で感染症患者の数を上回ると予想されています。ノバルティス・アクセスは、4つの主要な非感染性疾患に対する15種類の医薬品(特許期間中の医薬品およびジェネリック医薬品)の購入しやすさと手に入れやすさに焦点を当てています。

さらに詳しく
  1. World Health Organization, "Noncommunicable diseases fact sheet" http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs355/en/ 2018年4月4日情報取得