低所得国の慢性疾患対策へのテイラーメイド戦略

ヘルスケア専門家ジョナサン・クイック博士が、急増する開発途上国の慢性疾患の解決策について語る

Jul 13, 2017

2015年9月にノバルティスが立ち上げたノバルティス・アクセスは、心血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患、乳がんなどの主要な非感染性疾患(NCD; noncommunicable disease)に対する、医薬品の購入及び入手のしやすさに焦点を当てた初めての企業によるプログラムです。これらの慢性疾患は、開発途上国において深刻かつ増大している課題です。現在、低所得国において、すでに毎年2,800万人もの人が慢性疾患によって命を落としており、全世界でのNCDによる死亡の75%近くを占めています1


MSHによって運営されるプログラムを視察するジョナサン・クイック博士(左)

ノバルティス・アクセスは、ケニアとエチオピアですでに始動しており、ちょうど初めての支援がケニアで行われたところです。

ヘルスケアおよび医薬品へのアクセス拡大は、訓練を受けた医療従事者の不足、慢性疾患への理解不足、地方における医療インフラの欠如、不安定な医薬品供給の流通ネットワークといった、いくつかの課題にしばしば直面します。ノバルティスは、各国の政府や非営利団体と協力し、これらの課題を乗り越えるサポートを行っています。ケニアにおける主要パートナーにMSH (Management Sciences for Health)があります。MSHは、医療制度の充実を図る世界的な医療分野の非営利団体であり、医薬品が必要とされる人々の元に届くようノバルティス・アクセスのサプライチェーンの保全に取り組んでいます。

MSH社長兼CEO、ジョナサン・クイック博士が、開発途上国での非感染性疾患(NCD)対策の最も効果的な方法について語る:

低所得国におけるNCD対策はどのような状況だとお考えですか?

全体的に見てよい状況ではありません。慢性疾患の蔓延は緩やかな災害である、という表現がうまく言い表していると思います。なぜなら、高血圧症や糖尿病といった疾患は長年にわたりくすぶる傾向があるからです。それは地中で起こる森林火災によく似ています。少しの煙が出たかと思うと、森林が一気に火に包まれるのです。

実際のところ、開発途上国で慢性疾患を患う人は、より若い年齢でより早く亡くなっています。低中所得国で前立腺がんを患う男性、あるいは子宮頸がんを患う女性は、先進国で同じステージにある人よりも死に至る確率が3倍高くなっています1。これは大きな課題であり、改善されるどころか悪くなっています。そのため、早く行動を起こして問題を解決することが非常に重要になります。

低所得国におけるNCDの発症率は?

慢性疾患は豊かな国の疾患でも高齢者の疾患でもありません。低所得国において、毎年多くの小児・青年および働き盛りの成人がNCDにより命を落としています。これは、エイズ、結核、マラリアを合わせた数よりも多いのです。ですから、問題を認識し、地域レベルで現実的な取り組みを進めることが最優先事項です。

では、これらの国の医療を改善するために何ができるのでしょうか?

手頃な価格で手に入る血圧計や血糖値測定機器などの基本的な診断ツールがいくつかあります。およそ1年半前に私たちはウガンダの医療センターを訪れたのですが、5年前には存在しなかったものを目にしました。例えば、地元の医療保険会社との協力により、高血圧症、糖尿病、その他の疾患の無料検査を行う大きなテントが設置されていました。また、子宮頸がんの検査を提供するエイズのクリニックもありました。いくつかの医療センターは10年前と同様に埃っぽく、整理整頓されていなかったものの、基本的かつシンプルな、命を救うサービスを効果的に提供していました。すでに存在するこうしたものを足掛かりに事業を進めることが可能です。

病気の診断・治療のための啓発活動についてはいかがですか?

システム構築のためには、認知向上、目標設定、そして医療機関の研修が重要です。医薬品の供給も鍵となります。患者さんが長期にわたって抗レトロウイルス薬や高血圧症治療薬、あるいは他の慢性疾患の治療薬を服用するときは、安定した供給が必要となります。そのためには在庫管理などが要求されます。南アフリカが成功した一例です。南アフリカでは、エイズの治療のために構築したコンピューターシステムを、医療センターでの慢性疾患の管理にも活用しています。

ノバルティス・アクセスはNCD対策にどのように役立っていると思いますか?

ノバルティスが低所得国の慢性疾患対策に取り組んだことはすばらしいことです。なぜなら、高所得国の疾患と思われがちなこうした疾患の蔓延と蔓延している国の経済状況との間に大きな食い違いがあるからです。このプログラムは、管理可能な数の医療・健康問題に取り組んでおり、現実的なアプローチを採っていると思います。また、限られた国々で運営をスタートさせたのも賢明だと感じています。

私は、ノバルティス・アクセスの初期段階での試験運用について、技術的な確認のためだけでなく、関心を高めて推進者や賛同者をつくるためにも、実施する必要があると考えています。例えば、ケニアでは、医療制度の地方分権が大きく進みました。サービスの提供に関しては、地方行政区のカウンティレベルに権限があります。いくつかの国で運用を始め、それらのカウンティの政治および医療のリーダーがノバルティスのプログラムが役に立っていると感じれば、彼らが他の人を説得し、そのプログラムは自然に広がっていきます。

私たちは、ノバルティス・アクセス・プログラムによる製品が適切なチャネルに乗り、医薬品を受け取るべき低所得の患者さんが、手頃な価格で実際に受け取り、使用方法を理解するよう支援したいと考えています

MSH社長兼CEO ジョナサン・クイック博士

ノバルティス・アクセスの画期的な点は何だと思いますか?

このプログラムがユニークである理由には2つの要素があります。提供されるポートフォリオが最も一般的なNCDを対象としている点、さらに、医薬品にとどまらず各国の政府と協力し各国でNCD対策が進むよう支援している点です。成功するためには、試験運用のみならずプログラムの推進・規模拡大において、国レベルで取り組みを主導することが不可欠です。

ノバルティス・アクセスでのMSHの役割は何ですか?

MSH(Management Sciences for Health)は、現地主導、現地運営の医療システムの構築に関して長年の実績があります。私たちは、持続可能かどうかの核となるリーダーシップや、医薬品およびシステムに関する能力の構築をサポートしています。

ケニアでのノバルティス・アクセスに関し、私たちは、公的機関や宗教的慈善活動によるヘルスケアの提供におけるサプライチェーンの評価を行っています。在庫の追跡・監視に重点を置いたサプライチェーンの長所と短所を特定し、これに対応するための解決策、なかでも製品の容器からの漏れおよび品質低下のリスク最小化について提案したいと考えています。また、診断、治療、患者さんのモニタリングを含めた慢性疾患管理能力について評価を行うとともに、能力開発の取り組みにおいてどこに注力すべきかを特定していきます。

一言で言えば、私たちはノバルティス・アクセスによる製品が適切なチャネルに乗せられ、これらの医薬品を受け取るべき低所得の患者さんが手頃な価格で実際に受け取り、使用方法を理解するよう支援したいと考えています。

初めての製品がケニアに到着し、物事が順調に進んでいることをうれしく思っています!

ノバルティス・アクセス

低中所得国では、非感染性疾患(NCD; noncommunicable disease)は今後20年間で感染症を追い抜くことが予想されています。ノバルティス・アクセスプログラムでは、4つの主要なNCDに対する15の特許医薬品およびジェネリック医薬品の購入および入手のしやすさに注力しています。

1 World Health Organization, "Noncommunicable diseases fact sheet"
http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs355/en/ 2017年6月23日情報取得

本文は、2016年2月24日にwww.novartis.comに掲載されたStoriesからの翻訳です。
https://www.novartis.com/stories/global-impact/tailoring-tactics-tackle-chronic-disease-low-income-countries