AIDSの経験から慢性疾患に立ち向かうケニア

ケニアではAIDSやその他の感染症への対策が大きく前進する一方で糖尿病や心疾患などの慢性疾患やがんが増加しています

Dec 18, 2017

ある日、ペニーナ(Peninah)さんは彼女の子供に病院に行くよう言われました。彼女の年齢では通常考えられない動悸や頭痛があったからです。農家で働く65歳の彼女は初めは気乗りがしませんでしたが、今では定期的にムエア(Mwea)の病院に検診に行き、血圧を下げるための薬を服用しています。

医師の診察、血圧測定、薬には合計で300ケニアシリング(約3米ドル)がかかります。治療により彼女は一日中田んぼで働くことができるようになったため、治療してもらって良かったと彼女は言います。

医療制度を慢性疾患対策に適応させる

ペニーナさんのケースは、ケニア農村地域の慢性疾患の患者さんにおける長期的なケアの改善に関して起こりつつある変化を示しています。ケニアではAIDSや他の感染症の対策において大きな前進を遂げ、寿命が延びた結果、喘息、糖尿病、心疾患などの慢性疾患やがんが増加しています。ケニアでは実状に合わせた医療制度の改革に着手しましたが、課題は山積みです。抗生物質による急性疾患の治療に対応するよう作られた病院は、慢性疾患を費用効率が高く管理でき、アクセスしやすい医療センターに形を変える必要があります。

「慢性疾患のためのシステムを一から作り直す必要はなく、HIV/AIDSから学べばよいのです」と、クリスチャン・ヘルス・アソシエーション・オブ・ケニア (Christian Health Association of Kenya :CHAK)の医療サービス部長であるシプリアン・カマウ(Cyprian Kamau)博士は話します。「病気の診断と治療の両方に役立つ医療施設を拠点とした医療制度の構築が必要です」

慢性疾患のためのシステムを一から作り直す必要はなく、HIV/AIDSから学べばよいのです。病気の診断と治療の両方に役立つ医療施設を拠点とした医療制度の構築が必要です

クリスチャン・ヘルス・アソシエーション・オブ・ケニア(CHAK) 医療サービス部長 シプリアン・カマウ博士

カマウ博士によると、アフリカでは近い将来、慢性疾患による死亡が、HIV、結核、マラリアなどの感染症による死亡を上回る見込みであり、改革が急務となっています。実際、世界保健機関(WHO)は、2030年までに慢性疾患による死亡が、感染症による死亡、妊産婦および乳幼児の死亡、栄養不良による死亡を合わせた数と同じレベルになると推測しています。1

ケニアでは最近まで治療薬を手に入れることができなかったため、多くの人が慢性疾患の診断の意義を理解していませんでした。ケニア赤十字社のシルビア・カマティ(Sylvia Khamati)さんは、村で行った乳がんキャンペーンの場で、「私はがんなのね、それが何なの?」と人々が言っていたのを覚えています。

必要な人に医薬品を届ける

ノバルティス・アクセスなどのプログラムによって、手頃な価格の治療薬が農村地域でも手に入るようになってきたことで、この状況は変わりつつあります。2015年に活動を開始したノバルティス・アクセスは、心血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患の主要慢性疾患と乳がんに対して、新薬およびジェネリック医薬品15品目を入手しやすくするプログラムです。

治療薬を手に入れやすくなったことで、ケニアの人たちの姿勢が変わってきました。例えば、ペニーナさんが治療を受けているムエアの病院では、通常1日に300人以上の患者さんが診察、検査、処方を待っていますが、その大半が慢性疾患の患者でした。

「自ら地域の他の人に慢性疾患の啓発をしてくれる人もいます」と、必須医薬品供給ミッション(Mission for Essential Drugs & Supplies :MEDS)の顧客サービス部長であるジョナサン・キリコ(Jonathan Kiliko)博士は話します。

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キンデグワ(Kiandegwa)村にて、ペニーナさんのような女性が高血圧症や糖尿病の予防や管理について学んでいます

ペニーナさんは、ケニアの低所得者層で慢性疾患に対する姿勢が変わった人の典型です。彼女は、今ではキンデグワ村で地域の女性グループの代表を務めており、週に一度の集会で基本的な公衆衛生から慢性疾患に至るまで、幅広い医療の話題について話し合っています。

この治療に対する認知と啓発の高まりを最大限に生かすため、ケニアは研修と能力開発にさらなる投資を行う必要があります。ノバルティス、クリスチャン・ヘルス・アソシエーション・オブ・ケニア、ケニヤ・コンファレンス・オブ・カトリックビショップ、およびケニア赤十字社は、共同でケニア国内の地域の医療施設における慢性疾患の診断・管理力の拡大に取り組んでいます。これには今後2年間で100万人に糖尿病啓発キャンペーンを実施することが含まれます。その他の活動として、医療機関や地域での糖尿病および高血圧症の検査・診断キャンペーンや、医療従事者の研修などがあります。

低所得のケニア人の多くは治療費を自分で払うことができず、高額な医薬品が長期に必要な慢性疾患のケアを受けられません。ノバルティス・アクセスで提供される医薬品がこの問題を解決する助けとなります。患者さんの1疾患に対する1カ月の治療費は1.50米ドル以下である必要があります。カマウさんによれば、一部の人にとってはこの金額でも支払いが難しいため、これを埋めるために政府による助成が必要となります。

ノバルティス・アクセスが提供する医薬品は、2016年2月に初めてケニアの3つの郡の医療施設に届き、2017年末までに47のすべての地域でプログラムが開始される見込みです。ケニアはこれまで、ノバルティス・アクセスの4つの疾患領域で5種類の医薬品を、ひと月分を1単位として10万回分以上を発注しています。

ペニーナさんにとっての変化は大きいものでした。彼女は自身の病気について運命論者的でしたが、治療により彼女の大切な田んぼで、長年にわたって実りある生活を送ることができると考えるようになったのです。

この記事は、ノバルティス・アクセスと世界保健機関が2016年5月に共催した対話の内容に基づいています。このイベントのハイライトはこちら(英語)からご覧いただけます。

ノバルティス アクセス

低中所得国では、非伝染性疾患(NCD; noncommunicable disease)は今後20年間で感染症を追い抜くことが予想されています。ノバルティス・アクセスプログラムでは、4つの主要なNCDに対する15の特許医薬品およびジェネリック医薬品の購入および入手しやすさに注力しています。

ノバルティス・アクセス(英語)
  1. World Health Organization, Projections of mortality and causes of death, 2015 and 2030