ひとりは、特定の根や葉の薬効に関する何世紀にもわたって伝わった知識を活用する伝統療法の専門家、もうひとりのエドマンド・エクアジさんは、この古くからの知恵に隠された科学的事実を解き明かすことをライフワークとする大学の研究者です。
ガーナの首都アクラで育ったエクアジさんは、植物や他の自然界に存在する物質を由来とする医薬品の研究を行う生薬学分野の専門家です。植物は、長年にわたって数えきれないほどの医薬品を産み出してきました。例えば、アスピリンの成分である柳、鎮痛薬のモルヒネの成分であるケシ、また、キナの木は長年マラリア治療薬キニーネの原料として用いられてきました。
エクアジさんにとっての最初の難題は、科学を彼らの生活の脅威とみなすことも多い伝統的な薬草医に信用してもらい、さまざまな病気の治療に用いる植物を教えてくれるよう説得することでした。次にガーナのクマシにあるクワメ・エンクルマ科学技術大学の彼の研究室で、採取したサンプルの分析を行いました。
例えば、初めての科学的調査として、西アフリカにおいて切り傷、やけどからヘビのかみ傷、黄疸に至るまでのあらゆる症状に効くとして広く使われているサーワワ(saa-wawa)と呼ばれるクロウメモドキ科の低木を調べました。この研究では、この植物の抗菌作用や抗炎症作用に関係する多くの化合物を分離しました。
この研究は、植物から抽出された植物薬の品質評価におけるベンチマークとなります。「すべての人に医療を行き渡らせるのが難しいガーナに暮らす人々にとって、植物薬は重要です」と、エクアジさんは言います。
医療の常識を覆す
一方で科学的に新しく医療の常識を覆す化合物を発見したいという未来の希望を持っています。
このような大発見は、1970年代に研究者たちが、中国の漢方医の間で数千年にわたって抗マラリア作用が知られていた植物を研究した際に起こりました。アルテミシニンは、現在、世界中でマラリア治療の第一選択薬として用いられるノバルティスの医薬品などによる併用療法の基盤を形成しています。
エクアジさんは、2012年にノバルティスの次世代研究者プログラム(Next Generation Scientist Program) のインターンシップを終了した時に、ノバルティスの支援を受けました。このプログラムは、新興国の大学院生および医師の科学的・医学的能力の開発を目指しており、母国に戻ったときに自身や社会に役立つようなスキルを身に着けられるようになっています。
31歳のエクアジさんは、21カ国から集まった100人以上の研究者の中の1人としてこのプログラムに参加しました。このプログラムへの参加により、彼の質量分析などの技術の活用に磨きがかかったのです。これにより植物の分子構造の分析や薬効のある化合物の分離を行えるようになりました。
エクアジさんは現在、生薬学の教授として、また、研究室のアシスタントマネージャーとして働くガーナの大学でこうした技術を応用するとともに、いつかもっと遠くの患者さんに役立つことを願って、何世代にもわたってガーナ人の治療に用いられてきた野生植物の分析を続けています。