プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
この資料は、ノバルティス(スイス・バーゼル)が2022年1月10日(現地時間)に発表したプレスリリースを日本語に翻訳・要約したもので、報道関係者の皆様に対する参考資料として提供するものです。本剤について日本国内では未承認です。資料の内容および解釈については英語が優先されます。英語版は https://www.novartis.com をご参照ください。
- 急性新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の外来患者を対象とした、DARPin抗ウイルス治療薬候補であるensovibepの単回静脈内投与をプラセボと比較した無作為化試験(EMPATHY試験)Part Aのトップライン結果において、主要評価項目である8日間にわたるウイルス量減少を達成
- 副次評価項目であるCOVID-19と関連のある入院や救急外来(ER)受診または死亡の発現リスクがensovibep群全体でプラセボ群と比較して78%低下
- 407名の患者を対象とした本第II相試験では、全用量(75 mg、225 mgおよび600 mg)でensovibepの良好な安全性と忍容性が示され、今後の開発では75mgを使用予定
- ensovibepはin vitro試験において、オミクロン株を含めこれまでに同定されたすべての懸念される変異株に対し強力な汎変異株活性を維持
- ensovibepは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白質の受容体結合ドメインに対し、複数の標的をもつDARPin(Designed Ankyrin Repeat Protein)が、非常に強力、かつ協調的に結合することで阻害するように設計されており、エスケープ変異株の発現を阻止
- ノバルティスは、オプション行使により1億5千万スイスフランでMolecular Partners社からensovibepのライセンスを取得後、製造規模の拡大を加速するとともに、米国食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可(EUA)取得を皮切りに各国の規制当局からの迅速な認可取得を目指す
2022年1月10日、スイス・バーゼル発 — ノバルティスとMolecular Partners社は本日、COVID-19の治療でDARPin抗ウイルス薬候補であるensovibepの単回静脈内投与をプラセボと比較したEMPATHY臨床試験のPart A1において、主要評価項目である8日間にわたるウイルス量減少を達成したと発表しました。また、(1)複合評価項目である入院や救急外来(ER)受診または死亡、(2)臨床的な回復の維持までの期間、という2つの副次評価項目でも、プラセボと比べて臨床的に意義のあるベネフィットが示されました。ノバルティスは、Molecular Partners社からensovibepのライセンスを取得するオプションを行使するとともに、オプション行使後はFDAのEUA取得を皮切りに、世界規模で本剤へのアクセスの迅速化を目指すことを発表しました。
Molecular Partners社が治験依頼者となりノバルティスが実施中の世界規模の臨床試験であるEMPATHY試験は、COVID-19の外来(非入院)成人患者を対象とした無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験です。EMPATHY試験のPart Aでは、ensovibepが最適な安全性および有効性を示す用量を特定するため、米国、南アフリカ、インド、オランダ、およびハンガリーで募集した患者407名を対象に、75 mg、225 mg、および600 mgの3用量について検討しました。
試験結果では、3用量全てにおいて、プラセボと比較して、主要評価項目であるウイルス量減少が8日間にわたって統計学的に有意に達成されたことが示されました。副次評価項目であるCOVID-19と関連のある入院やER受診または死亡の発現リスクは、プラセボ群と比較してensovibep群全体では78%低下したことが示されました。各投与群は、人口統計学的特性、ベースライン特性、および疾患特性の点で概ね均等に割り付けられていました。患者99名からなるプラセボ群では合計6件のイベントが発現し(発現率6.0%)、5名が入院、そのうち2名がCOVID-19の悪化により死亡、1名がERを受診しました。ensovibepによる治療を受けた患者301名では、4件のイベントが発現し、2名が入院、2名がER受診を要しました(発現率1.3%)。ensovibepによる治療を受けた患者の死亡は認められませんでした。すべての用量で忍容性は良好であり、いずれの用量でも予期せぬ安全性の問題は認められませんでした2。最低用量である75 mgを、今後の開発に用いる予定です。ノバルティスとMolecular Partners社は、このプログラムの適切な次のステップを決定するために今回のデータを引き続き精査する予定です。
ノバルティスのCEOであるヴァサント・ナラシンハンは次のように述べています。「EMPATHY試験の結果によりensovibepの良好な治療効果が示され、本剤が急速に進化するSARS-CoV-2のパンデミックと闘うための重要な新規治療選択肢となる可能性を持つことが示されたことを嬉しく思います。COVID-19は現在も世界中の医療体制に負担をかけており、今後広範な治療が必要となります。ノバルティスは、COVID-19に対するこの独自の治療薬に関してMolecular Partners社と引き続き協力し、ensovibepをこの一連の治療選択肢に加えるよう尽力することを誇りに思います」
ノバルティスは、オプション行使を決定したことで、ensovibepの開発、製造、流通、および販売活動の責任を担います。ノバルティスはすでに自社の大規模な生物製剤製造施設において製造規模拡大の取り組みに着手しています。
SARS-CoV-2ウイルスは進化するため、このパンデミックと闘うには複数の解決に向けた戦略が必要であり、世界でのワクチン接種の取り組みを補完する抗ウイルス治療薬が必要となります。一部のワクチン未接種集団や免疫系の機能が低下した患者、基礎疾患のある患者、あるいは新たな変異株による感染が続いており、ブレークスルー感染も引き続き認められる可能性が高くなっています。最近のin vitro解析3では、ensovibepが懸念されているオミクロン株と一致する変異体を含む疑似ウイルスの完全な中和を維持することも示されました。
Molecular Partners社のCEOであるパトリック・アムステュツ(Ph.D.)は次のように述べています。「ensovibepのような汎変異株活性を有する治療薬に対するニーズがこれまでになく高まっているこの今、このような有望な結果が得られました。 有効なCOVID-19治療薬へのアクセスを求める世界中の患者さんに有望な治療選択肢を提供する機会が得られ、非常に嬉しく思います。本日発表したデータは、グローバル臨床試験で安全性と有効性が示された固有の抗ウイルス薬を提供するために、私たちとノバルティスが一丸となって継続的に取り組んだ結果です。DARPin治療薬の先駆者として、私たちチームは複数の標的をもつDARPin治療薬を迅速に作製し開発する独自の能力を持っています。引き続き私たちのケーパビリティを実証し、私たちのパイプラインのがんやウイルス疾患領域での可能性や、治療薬を必要とする患者さんに対する可能性を示していきたいと考えています」
世界中での公衆衛生上の緊急事態やオミクロン株の急速な感染拡大を受け、ノバルティスとMolecular Partners社は、一刻も早いensovibepの迅速審査と承認取得に向けて規制当局と緊密に連携しています。ensovibepは、承認されればCOVID-19治療のための初の複数の標的をもつ抗ウイルス分子となります。
ensovibepについて
ensovibepは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2を不活化させるよう特別に設計されたDARPin治療薬候補です。
DARPin(Designed Ankyrin Repeat Protein)は、単一または複数の標的をもつ蛋白質による治療薬であり、様々な効果により特異的に標的を攻撃するよう設計されています。ensovibepは、3つの個別のDARPinドメインを含むよう設計されました。各ドメインがSARS-CoV-2に対して高い中和活性を有します。これらのドメインを1つの分子内に構築することで、ensovibepは非常に強力、かつ協調的に結合することでSARS-CoV-2のスパイク蛋白質の受容体結合ドメイン(RBD)を阻害することができます。このような設計により、スパイク蛋白質が変異していても強力な中和活性を示し、エスケープ変異体の発現を阻止します。DARPin治療薬は、複数の特異的な結合や迅速な作用発現、スケーラビリティに優れた細菌による製造など、いくつかの特性から、COVID-19の治療に適したものとなっています。
in vitro試験では、懸念される変異株であるアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、およびオミクロン株を含む、SARS-CoV-2のすべての既知の変異株に対するensovibepの強力な中和活性が示されています3。
EMPATHY臨床試験プログラムについて2
第I相試験で得られたensovibepの有望な臨床データを受け、2021年5月に、世界規模のEMPATHY試験がMolecular Partners社を治験依頼者としてノバルティスにより開始されました。EMPATHY試験は、COVID-19の症状のある外来(非入院)患者を対象としてensovibepの安全性および有効性を検討する第II相および第III相臨床試験です。ensovibepは単回静脈内投与されます。
EMPATHY試験では、患者2,100名を登録する予定です。最適な安全性および有効性を示す用量を特定するため、試験のPart Aで407名の患者が4つの群に無作為に割り付けられました。今回特定された用量のプラセボとの比較による臨床的な有効性および安全性は、世界で患者1,700名を新たに登録するの第III相試験であるEMPATHY試験 Part Bにおいてさらに評価予定です。
EMPATHY試験では、ベースラインとしてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査で陽性と確認され、COVID-19発症から7日以内に2つ以上の軽度/中等度の症状が認められるとともに、投与日に迅速抗原検査が陽性だったワクチン接種済および未接種の成人患者を登録しました。COVID-19の症状は、発熱、咳嗽、咽喉痛、体力低下、疲労、頭痛、筋肉または身体の痛み、悪寒、および/または呼吸困難などです。
Molecular Partners社との提携
ノバルティスは、COVID-19の治療に使用できるよう設計されたDARPin治療薬候補であるensovibepの開発に関してMolecular Partners社と提携することを誇りに思います。ノバルティスは、オプション行使を決定したことで、ensovibepの今後の開発、製造、流通、および販売活動を担います。契約条件のもとで、Molecular Partners社は株式資本を含む6千万スイスフランの前払いを受けました。Molecular Partners社は、ノバルティスによるこの治療薬候補に関するオプション行使選択に際しさらに1億5千万スイスフランの支払いを受け、販売時には多額のロイヤリティ支払いを受けます。Molecular Partners社は、低所得国でのロイヤリティ放棄に同意しており、各国のニーズや特性に応じて手頃な価格を設定するというノバルティスの計画に賛同しています。
COVID-19パンデミックへのノバルティスの対応
ノバルティスは、COVID-19のパンデミックに対する世界的な闘いに大きく貢献するとともに、世界の医療体制の安定を支援しています。ノバルティスは、スイスのシュタインにある製造施設をCOVID-19ワクチンの製造のために提供するというBioNtech社との初期契約締結を発表しました。また、世界中でこのパンデミックの影響を受けている地域社会を支援するため、4千万米ドルを寄付しました。
ノバルティスバイオメディカル研究所では、COVID-19やその他のコロナウイルスに対する初の経口治療薬開発に向けた共同研究による長期的な創薬の取り組みを開始しています。COVID-19へのノバルティスの対応に関する詳細は、www.novartis.com/COVID-19 をご覧ください。