プレスリリース
報道関係各位
ノバルティス ファーマ株式会社
ノバルティス ファーマ株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:レオ・リー、以下「ノバルティス ファーマ」)は、本日、両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー(以下、IRD)に対する初めての遺伝子治療用ベクター(ウイルスベクター製品)「ルクスターナ®注」(一般名:ボレチゲン ネパルボベク、以下「ルクスターナ」)について、製造販売承認を取得したことをお知らせいたします。
IRDは、遺伝子の変異が原因で、網膜の機能が障害される遺伝性、進行性の目の疾患の総称です。そのうちの代表的な疾患の一つである網膜色素変性症では、発症時期は様々ですが一般的に10歳前後で発症し、夜盲や視野狭窄が現れ、進行とともに視力が低下します1。また、レーベル先天黒内障では、生後2から3カ月で症状が発現し、多くは6カ月以内に視力が著しく低下し、まぶしく感じる羞明や眼球が揺れ動く眼振などの症状がみられ、その多くは、若年成人期までに失明に至ります2,3。
【IRDに含まれる疾患の種類と原因遺伝子】赤字は「ルクスターナ」の適応となる原因遺伝子4
Sangermano R, et al.:Genetics and Genomics of Eye Disease.239-258, 2020より改変
IRDの原因遺伝子の1つであるRPE65遺伝子に変異があると、RPE65タンパク質を作ることができず不足してしまい、正常な視覚に必要な視覚サイクルを回すことができず視覚障害が生じます6 。
「ルクスターナ」は、この遺伝子の機能欠損を補う遺伝子補充療法であり、両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィーと診断された、視覚障害があり、十分な生存網膜細胞がある成人及び小児の患者さんに対する治療を目的に開発された、眼科疾患で初めての遺伝子治療用ベクターです。各眼につき網膜下への1回の注射により、正常なRPE65遺伝子を組み込んだ病原性のないアデノ随伴ウイルス2型(AAV2)により正常RPE65遺伝子が網膜色素上皮に導入され、RPEタンパク質が長期間安定して発現することにより、本疾患の患者さんの視覚サイクルが正常に機能するようになり、長期間にわたって視機能が維持されることが期待されます5,6。
今回の「ルクスターナ」の承認について、ノバルティス ファーマの代表取締役社長 レオ・リーは次のように述べています。「本日のルクスターナの承認により、これまで治療法がなかった非常に希少な両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRDの患者さんに、この革新的な治療をお届けできることを嬉しく思います。視野が狭く、暗い環境下で明るさを感じにくくなり、失明の不安を抱えている患者さんに、「ルクスターナ」が視機能改善の希望に繋がることを心より願っています。ノバルティスは、これまで治療不可能であった疾患の治療の可能性を開く細胞・遺伝子治療のような高度な治療プラットフォームの開発とアクセスの確立に取り組んでいます。」
「ルクスターナ」の試験結果
今回の承認は、両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィーを対象に実施した、海外第I相試験(101試験、102試験)海外第Ⅲ相試験(301試験)、国内第Ⅲ相試験(A11301試験:日本人4名)の計4試験の結果に基づくものです。
301試験(両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィーの成人及び小児患者を対象とした海外第Ⅲ相試験7-9)においては、介入群21例の両眼に本品を単回網膜下投与したところ、1年間無治療で経過観察した対照群10例と比較し、本品投与1年目の時点でのMLMT*スコア(主要評価項目)の平均変化量が介入群で1.8(±1.1)、対照群で0.2(±1.0)であり、本品投与群で統計学的に有意な改善がみられ(p=0.001、permutation test)機能的視力の改善が示されました。
また、A11301試験(両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRDを対象とした国内第Ⅲ相試験)においては、日本人患者4例の両眼に本品を単回網膜下投与したところ、本品投与1年後のベースラインからのFST**(主要評価項目)の平均変化量(範囲)は−1.831(−3.54 ~−0.56)であり、ベースラインに比べ光感受性の改善がみられました。
また、本品の臨床試験(101試験、102試験、301試験、及びA11301試験)において本品が投与された45例(日本人4例を含む)のうち、重大な副作用として眼内炎(頻度不明)、眼の炎症(6.7%)、網膜異常(28.9%)、眼圧上昇(13.3%)、白内障(24.4%)が報告されています。
*MLMT(multi-luminance mobility test):暗い部屋の中で目印に従って障害物をかわしながら歩くテストで、患者が異なる照度レベルの環境下で、決められたコースを正確かつ妥当な速度で移動できる能力を評価するテスト。
**FST( Full-field light sensitivity threshold):患者の異なる輝度レベル(光の輝き)に対する知覚を測定することで、網膜全体の光感度を評価するテスト。
「ルクスターナ」の開発経緯
本品は両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRD患者に対するウイルスベクター製品として米国Spark Therapeutics社(Roche社傘下) が開発した遺伝子治療用ベクターで、米国及びEUで、それぞれ2017年12月及び2018年11月に承認されました。なお、ノバルティスは、米国外のすべての国で開発、承認申請および販売に関する独占権を保有します。
国内では2020年3月19日希少疾病用再生医療等製品に指定され、両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRDの日本人患者を対象に、本品の有効性及び安全性の評価を目的として、日本の医療環境下で少数例の患者での国内第III相試験であるA11301試験を実施しました。その結果、日本人の両アレル性RPE65遺伝子変異によるIRD患者に対する本品の有効性が確認され、作用機序、有効性、投与手技を含む安全性に影響を及ぼすような民族的要因はないと考えられたことから、国内および海外で実施した臨床試験データを基に承認申請を行い、2023年6月26日に「両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー」に対して製造販売承認を取得しました。
ノバルティス ファーマ株式会社について
ノバルティス ファーマ株式会社は、スイス・バーゼル市に本拠を置く医薬品のグローバルリーディングカンパニー、ノバルティスの日本法人です。ノバルティスは、より充実したすこやかな毎日のために、医薬の未来を描いています。ノバルティスは世界で約10万3千人の社員を擁しており、約8億人の患者さんに製品を届けています。詳細はホームページをご覧ください。
https://www.novartis.co.jp
以上
参考文献
- 難病情報センター. https://www.nanbyou.or.jp/entry/196.
- 村上 晶ほか編集:眼科臨床エキスパート 網膜変性疾患診療のすべて. 医学書院, p8, 201.
- 日本小児眼科学会. http://www.japo-web.jp/info_ippan_page.php?id=page19.
- Sangermano R, et al.:Genetics and Genomics of Eye Disease.239-258, 2020より作成.
- Fuhrmann S. et al.: Exp Eye Res. 2014; 123:141-50.
- Penaud-Budloo M. et al.: J Virol. 2008; 82(16) : 7875-85.
- Russell S. et al.:Lancet. 2017;390(10097):849-60.
- Maguire AM. et al.:Ophthalmology. 2019;126(9):1273-285.
- Maguire AM. Et al.:Ophthalmology. 2021;128(10):1460-8.
<参考資料>
ルクスターナ®注の製品概要
製品名:
「ルクスターナ®注」
一般名:
ボレチゲン ネパルボべク
効能、効果又は性能:
両アレル性RPE65遺伝子変異による遺伝性網膜ジストロフィー
《効能、効果又は性能に関連する使用上の注意》
(1) 遺伝学的検査によりRPE65遺伝子の両アレル性の変異が確認された患者に投与すること。
(2) 適切な検査により十分な生存網膜細胞を有することが確認された患者に投与すること。
用法及び用量又は使用方法:
通常、1.5×1011ベクターゲノム(vg)/0.3mLを各眼の網膜下に単回投与する。各眼への網膜下投与は、短い投与間隔で実施するが、6日以上あけること。同一眼への本品の再投与はしないこと。
《用法及び用量又は使用方法に関連する使用上の注意》
本品のカプシドタンパク質及びRPE65タンパク質に対する免疫応答のリスク低減を目的とした本品投与前後のプレドニゾロン(又は同等用量の副腎皮質ステロイド)の投与方法
(1) プレドニゾロン(又は同等用量の副腎皮質ステロイド)の投与開始前及び本品の投与前に、感染症の有無を確認し、感染症が認められた場合は投与を中止し、回復してからプレドニゾロン及び本品の投与を行うこと。
(2) 本品を1眼目に投与する3日前から、下表を参考にプレドニゾロンの投与を行うこと。2眼目のプレドニゾロンの投与開始は1眼目のプレドニゾロン投与と同じスケジュールに従い、1眼目のプレドニゾロンの投与が終了していない場合は、2眼目のプレドニゾロンの投与スケジュールを優先する。
承認条件及び期限:
- 国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用の成績に関する調査を実施することにより、本品使用患者の背景情報を把握するとともに、本品の安全性及び有効性に関するデータを早期に収集し、本品の適正使用に必要な措置を講ずること。
- 遺伝性網膜ジストロフィーに関する十分な知識及び経験を有する医師並びに網膜下(黄斑下)手術に関する十分な知識、経験及び技術を有する医師が、本品の臨床試験成績及び有害事象等の知識を十分に習得した上で、遺伝性網膜ジストロフィーの治療に係る体制が整った医療機関において、「効能、効果又は性能」並びに「用法及び用量又は使用方法」を遵守して本品を用いるよう、関連学会との協力により作成された適正使用指針の周知等、必要な措置を講ずること。
- 「 遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)」に基づき承認された
第一種使用規程を遵守して本品を用いるよう、その使用規程の周知等、必要な措置を講ずること。
承認取得日:
2023年6月26日
製造販売(輸入):
ノバルティス ファーマ株式会社