研究者、血液がんにおけるT細胞療法への理解を深める

ノバルティスの研究者、一部の若年患者が再発する理由の遺伝的説明を発見

Jun 23, 2023

2件の臨床試験においてノバルティスの T細胞免疫療法を受けた急性リンパ芽球性白血病(ALL)の小児及び若年成人のほとんどが治療に反応しました1。大半の研究者らは、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法の一種で、患者自身のT細胞を遺伝子操作によって改変し腫瘍細胞を一掃する治療法であるチサゲンレクルユーセルによる治療後、悪性度の高い血液がんの分子痕跡を見つけられませんでした。

残念ながら、これらの症例の約3分の1では約3~10ヵ月後に疾患が再発したのですが、その理由は十分に解明されていませんでした。

現在、ノバルティス生物医学研究所(NIBR)の科学者は、他の11施設の共同研究者と共に、2つの臨床試験で一部の若い患者においてALLがどのようにしてチサゲンレクルユーセルに対する耐性を進化させたかを説明する、広範なゲノム解析を実施しました。Nature Medicine誌で報告された本研究は、今後の併用療法がこのような患者にどのように役立つかについての手がかりとなります。本研究は、次世代CAR-T細胞治療を創出するためのノバルティスにおける大規模研究の一環です。

本研究イニシアチブは、若年ALL患者の治療における著しい進歩に基づいています。NIBR細胞療法研究所長のJennifer Brogdonは次のように述べています。「この患者コホートの患者では1ヵ月以内に完全寛解が得られています。これは免疫システムが最も得意とすることで、危険な脅威を素早く認識し、体内から排除して身体を守ります。しかし実際には、腫瘍細胞にはまだ進化し、治療に対する耐性を獲得する能力を持っています」

再発を理解するために深く掘り下げる

研究者らは、ALL治療におけるCAR-T療法チサゲンレクルユーセルの有効性と安全性を検証した2件の試験を追跡調査しました。本剤は、ALLにおいてがん化するB細胞の表面に存在する蛋白質であるCD19を標的とするよう設計されています。

両試験の患者104人のうち、32人が最終的に再発しました。NIBRの科学者らは、腫瘍細胞がCD19蛋白質の徴候を示さなくなった12人の再発患者の検体を調査しました。同研究者らは腫瘍DNAの配列を決定して腫瘍内の遺伝子変異を見出し、RNA発現の配列を決定して腫瘍が産生する蛋白質にこれらの変異が及ぼす影響を調べました。

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PJ Kaszasによるアニメーション

CD19の変異は患者さんごとに異なっており、中には著しい数の突然変異を示す患者さんも居ました。今回の論文の主著者であり、NIBR次世代診断グループの研究者でもあるElena Orlandoは次のように述べています。「これらの患者さんがCD19の遺伝子変異を急速に獲得しており、それによって細胞表面にその蛋白質を発現しなくなった理由を説明することができることを発見しました」

突然変異は何億個もの腫瘍細胞の間で偶然に起こるもので、突然変異が細胞の生存に有利に働くと、その細胞は極めて急速に増殖します。例えば、この再発患者の中には、最初に治療に反応した後、毎月モニタリングされ、CD19変異を有する細胞の割合は1ヵ月以内に0から100%に変化した人もいました。

NIBRの次世代診断エグゼクティブ・ディレクターであるWendy Wincklerは次のように述べています。「この腫瘍は驚くほど急速に進展します」

本研究は、腫瘍細胞にCD19蛋白質の徴候が認められなくなったこれらの再発患者はチサゲンレクルユーセルの再投与によって恩恵を受ける可能性があるのかどうかという疑問に決着をつけるものである、とOrlandoは述べています。恩恵は受けられません。というのも、遺伝子突然変異によってCD19蛋白質が作られますが、これを本治療法の標的とすることができないからです。蛋白質は損傷しすぎて腫瘍細胞の表面に現れません。

その代わりに、研究者たちはこれらの患者さんを治療するための薬剤併用戦略を検討し、特にB細胞の表面に現れる可能性が高く、他の細胞にはあまり現れない別の蛋白質を探索します。1つの可能性はCD22として知られる蛋白質であり、現在多くの企業がCD19とCD22の両方に対してCAR-Tを組み合わせた治療法を検証しています。

発見ツールの治験への導入

これらの知見は、治療前及び奏効・再発後の患者さんの腫瘍検体の詳細な解析からノバルティス研究者が学べることが多いことを示唆しています。Brogdonは次のように述べています。「患者さんの検体を深く調査し、CAR-T注入後に生じていることを説明するために何が発見できるかを見ているところです。私たちは、この分野がより迅速に次世代のCAR-T療法に移行し、より多くの患者さんを救うために役立つ知見を明らかにしようとしています。これが私たちの最終目標です」

NIBRは約5年前に次世代診断薬グループを結成し、ゲノムやその他の最先端の創薬技術を臨床試験に応用することで、こうした取り組みをサポートしています。

Wincklerは次のように述べています。「ノバルティスのがん領域の臨床試験を横断的に取り組んでおり、それぞれの治療で生じる固有の問題に同様の研究方法を適用しています。これらの包括的な発見ツールを用いて、既成概念にとらわれずに、患者さんがなぜ反応したりしなかったりするのかを理解する私たちのようなグループには大きなチャンスがあります」