自己炎症性疾患とは、周期的な発熱に加えて関節炎や関節痛、発疹、眼症状、腹部症状などを引き起こす、炎症を主病態とする疾患です1。その自己炎症性疾患のうち、地中海沿岸の人々に多発する疾患として「家族性地中海熱」が知られています。日本での患者さんの数は500人程度と推定されています。家族性地中海熱の特徴は、発熱時間が6~96時間と比較的短く、多くは腹痛・胸痛・関節痛を伴うことです1。
【高校生の今井さんの場合】
今井さんは、3歳から周期的に高熱が出始めました。しかし、子供の頃は単によく熱を出す身体の弱い子と思われてきました。
「ママ、こんなのがある。」
10歳のある日、入浴していると、脚に紫色のあざがあるのに気がつきました。小児科医に相談したところ、大学病院を紹介され、そこで直ぐに遺伝子検査を受けることになりました。その結果、家族性地中海熱と確定診断がつきました。
3歳で発症してから7年後にようやく確定診断にたどり着きましたが、7年でもまだ早いほうだと言われます。
「一番つらい症状は頭痛です。ひどい時は頭をハンマーで殴られている感じがします。たいていは、夜中の2時とか3時に痛みが出ます。激痛に耐えられず、いつも吐いてしまいます。」
家族性地中海熱は、周期的に熱が出るだけではなく、同時に体に激痛が走り患者さんを苦しめます。痛みが起こる場所は人によって違いがあり、今井さんの場合は、関節痛や頭痛などが起こります。
【足立さんの場合】
足立さんは、生後6ヶ月で発熱が始まりました。この正体不明の発熱を引き起こす疾患について、確定診断がついたのは、35歳の時でした。
「生後半年から開業医や病院の小児科、大学病院など、至る所に行きましたが、子供によくある発熱としか言われませんでした。親が神経質になるから子供がストレスで発熱するのだと言われたことがきっかけで、6歳から病院に行かなくなりました。」
17歳になると腹痛や関節痛が始まりました。大学病院を受診しましたが、
「思春期のストレスによる熱の疑いがあるので、心療内科でカウンセリングを受けて下さい」と言われ、やはり診断がつきませんでした。
病気のせいで学校では遅刻早退を繰り返さざるを得ませんでした。しかし、周囲の声は「何か精神的に問題があるのではないか」「家庭に問題があって学校に来られないのではないか」といったものでした。学校からも理解が得られず、心理的にも厳しい状況に追い込まれてしまいました。
足立さんの症状は、発作時の70時間以上続く高熱と、激しい腹痛と胸痛が周期的に起きることです。
「胸をグサグサって出刃包丁で刺される感じというか、背中にぬける痛みです。発作がくると急に全く動けなくなり、うずくまってもう息もできなくなります。痛みの対処法は、ずっと我慢、ひたすら我慢、です。我慢しきれないときは叫びます。」
また、長年にわたり繰り返し全身に炎症が起きたことによって、臓器障害が始まりました。
「自分の分からないところで、臓器障害が進んでいて、胸膜炎の他に心膜炎も起こして心不全にもなってしまいました。」
一方、発作がない時期は、どこにも痛みもなく元気になるので、認知度の低さもあり、とても誤解されやすい病気だと足立さんは言います。
足立さんは2013年に「自己炎症疾患友の会」という患者団体を立ち上げました。インターネット、ツイッターで同じような病気の方を探している患者さんに連絡をとり、同じ悩みをもつ人々を繋ぎました。
「こんな病気にかかっているのは、自分ひとりだと思っていた。でも、自分は、ひとりじゃない。やっと話が通じる。」
「そんな病気はないと周りから疑われてきました。でも、やはり私は間違っていなかった。」
そう喜ぶ方がいまだに多いといいます。
足立さんは、患者さんを取り巻く社会的課題にも目を向けています。
「高校生は卒業することが難しく、大学生は卒業後に就職できないことが多くあります。そうすると、働けない、医療費がない、病院に行けない、ということになります。結果、最終的に家に引きこもってしまうという悪循環にどんどんはまっていきます。」
インタビューをした日は、名古屋で患者さんの交流会が行われ、症状や治療、就学や就労など、さまざま情報交換が行われました。家族性地中海熱という疾患を一人でも多くの人に知ってもらい、この疾患に対する理解を広げていくこと、未診断や次世代の患者さんが、より早く適切な治療にたどり着けるようにすることが、足立さんの願いです。