LUNGevity*の研究・教育担当シニア・バイスプレジデントであるスーザン・マンテル (Susan Mantel)さんが、肺がんのバイオマーカー検査の重要性、より良い診断ツールが治療選択肢をいかに変えているか、さらには肺がんと診断された人が知っておくべきことについての考えを紹介します。
* LUNGevityは肺がんの研究・啓発・支援を通じて肺がん医療向上を目指す米国の非営利団体です。
毎年、世界中で180万人1もの人が肺がんと診断されています。米国だけでも2分30秒に1人が新たに肺がんと診断されています。しかしながら、このようによく知られている疾患についてさえ、いまだに多くの誤解が存在しています2,3。
多くの肺がん患者が、診断時に喫煙歴がない、又はすでに喫煙をやめていたということをご存じでしたか? また、肺がんと診断されたら望みがないという誤解も存在しています。かつては治療選択肢がほとんどなかったこともありましたが、この12年間ほどで、この複雑な疾患の解明や個々の患者さんに合わせた個別化治療の開発が飛躍的に前進しました。
研究者は、顕微鏡下の細胞の状態に基づく疾患分類に加え、肺がんの発生・増殖を引き起こす分子変化についても解明を進めています。これまでに、非小細胞肺がん(NSCLC)の中で一般的な組織型である肺腺がんのうち約60%以上2が、これらの分子変化あるいは遺伝子変異と関連していることが分かっています。研究者は、肺腺がんだけで、がんの発生・増殖を促す12のドライバー遺伝子変異を特定し、肺扁平上皮がんでも別のいくつかの遺伝子変異を特定しました。ALK、EGFR、ROS-1、BRAFの既知の4つの遺伝子変異に対してはすでにいくつかの治療薬が承認されており、その他の遺伝子変異に対する治療薬の臨床試験も進められています。患者さんが、これらの治療薬の対象となるかどうかを調べるためには、腫瘍検体を用いてこれら遺伝子変異の検査が必要になります。
残念なことに、このような検査を受けるべき患者さんであっても、適切に検査を受けていないというケースがまだ多くあります。また、このような検査の呼び方がまちまちで一貫性がなく、ややこしい専門用語で語られるせいで、自身の腫瘍がこれらの遺伝子変異の検査を受けたのかどうかも分かっていないというケースもあります。例えば、遺伝子検査という言葉に、人々は肺がんが遺伝した、あるいは遺伝する可能性があるということについて話していると考える人もいます。さらに、ある人が分子診断と呼ぶものが、別の人では変異解析、コンパニオン診断、ゲノム検査となるなど、様々な呼び方が存在しています。
治療対象となる遺伝子変異検査のすべてが標準診療ではない場合もあり、初回の生検で取り出す腫瘍検体の量だけですべてを調べるには少なすぎるといったことがあります。そのため、追加で生検を行う必要性が生じたり、又は検査を行わない、若しくは十分な検査が行われないという結果に陥ってしまうことがあります。検査方法は医療機関によって異なるため、一貫性のない結果となる可能性もあります。さらに、1回の検査で1つの遺伝子変異だけを検出する検査を行うのか、あるいは、1回の検査で複数の遺伝子変異を検出する検査を行うのかということもあります。
最後に重要なこととして、現在承認されている分子標的治療薬は、ほとんどすべての場合、一定期間使用後には効果がなくなります。このとき、少なくともいくつかのケースでは、追加の分子変化が生じていることが分かっています。このように、新たに生じた遺伝子変異により薬剤への耐性が生じた場合には、それを阻害する治療薬の対象かどうかを再度検査する必要があります。患者さんは追加の生検に前向きですが、一方で多くの医師が「患者さんに再度、この負担を感じさせたくない」と言っています。
肺がんの疾患理解や治療が刻々と変化するなか、患者さんにとってベストなことは、可能な限りの情報を得て、担当する医療チームとあらゆる選択肢について話し合う準備をすることです。肺がん、遺伝子検査、治療選択肢に関するさらなる情報は、http://www.LUNGevity.org (英語)のAbout Lung Cancerのページに掲載されています。