骨髄増殖性腫瘍:希な血液疾患とともに生きる

希な造血器腫瘍である骨髄増殖性腫瘍-MPNと生きる患者さんのストーリー

Sep 14, 2017

骨髄増殖性腫瘍(Myeloproliferative neoplasms:MPN)は、血液の細胞に関係する骨髄細胞の増殖と機能に異常をきたす希な造血器腫瘍の総称です。MPNには、骨髄の線維化により骨髄で血液を造ることが難しくなる骨髄線維症(MF)、赤血球などの血液の細胞が過剰に増加する真性多血症(PV)、血小板が過剰に増加する本態性血小板血症(ET)があります。「倦怠感」「かゆみ」「寝汗」といった消耗性の症状が日常生活に影響を与えています。欧米の統計では、いずれも患者数は10万人あたり最大でも3人程度1,2という希な病気です。

かつては原因不明でしたが、近年では原因である遺伝子異常の発見などが進み、治療すれば日常生活を送ることができるようになりました。

そのようななかでMPNの患者さんが日常生活や治療でどのような悩みを抱え、それらをどのように克服しようとしているのか。ETの患者さんである小瀬良克也さん、PVの患者さんである石岡尚子さん(仮名)、MF患者の有川直美さん(仮名)にお話をうかがいました。

希少疾患であるが故の戸惑い

小瀬良克也さん

MPNは、健康診断の血液検査での異常が診断のきっかけになることが少なくありません。3人はいずれも職場の健康診断を機に病気が見つかったそうです。小瀬良さんは「診断された時、最初に『なんだ、その病気は?』と戸惑いました」と語ります。診断からわずか1か月半で血小板数はみるみる増加し、抗がん剤の処方が始まりました。当時はインターネットで調べても満足な情報はない状態。「子供も幼く、不安だらけ。毎日睡眠導入剤を服用して眠りにつく日々を送りました」と振り返ります。 一方、石岡さんは小瀬良さんと同じETと診断されたのち、PVに移行。MPN患者としては23年という長期の罹患歴があります。

診断当時は大学病院の看護師をしていた石岡さんですら、聞いたことがない病気でした。勤務先の血液内科で診断を受け、主治医からは「原因不明の希な病気で、今は血が固まらないようにする薬を飲むしかないけど、将来は治せる薬が出るかもしれないからね」と優しく言われたという石岡さん。「インターネットがなかった時代だったからこそ、余計な情報が入らず、主治医の言葉だけを信じて不安を抱かずにすみました」と語ります。また、当初は血液検査値の上昇が緩やかで、症状が特になかったことも病気を深刻に受け止めずに済んだ要因だったといいます。

確定診断直後、それほど気落ちしなかった石岡さんでしたが、しばらく病気のことは両親や弟、友人には話しませんでした。「希なうえに原因不明となれば、説明そのものが難しいのです。また、話すことで誤解も含め、過剰な反応をされることも嫌でしたから」と苦しかった胸の内を語ります。

石岡さんの場合、確定診断を受けたのは結婚の直前。破談になることが怖く、夫に打ち明けたのも数年後のことでした。

「主治医以外からも『あまり聞いたことがない』とか『この病気の患者は今まで見たことがない』などと言われ、自分は医師も馴染みのない病気になってしまったのだと孤独感に苛まれたことも何度かありました」

患者団体との出会い

しかし、この10年でMPNの原因となる複数の遺伝子変異が発見され、治療薬の開発も進みました。

かつては不安だらけの日々を送った小瀬良さんも、研究が進んだことは非常に明るい材料ととらえています。その一方で「ETもPVも長い経過を経てMFに移行する可能性があると分かってきたため、新たな不安も感じています」と語ります。

そして病気の解明が進んでいる今だからこそ、新たにMPNと診断された患者さんに、自分と同じ戸惑いを感じてほしくないと考え、現在はMPNの患者団体の運営に携わっています。

「暗い表情した患者さんが初めて患者団体の集いに参加して、『来てよかった』と笑って帰っていく姿を見て、本当に良かったと思う自分が今はいます」(小瀬良さん)ネガティブなことも話せる同じ病気の仲間がいる患者団体の存在は、長らく病気のことを主治医以外には口にしなかった石岡さんにも変化をもたらしています。「今は患者団体の中では長老的な存在の私だからこそ、病気との付き合い方を伝えることはもちろん、今日を精一杯生きている姿を見せ、同じ病気の患者を安心させるのが役割だと思っています」

病気になってから強まった周囲との絆

MFと診断された有川さんは、いずれ骨髄移植が必要になる可能性があると主治医に告げられています。

「元来怖がりの兄が、骨髄移植が必要になったら、『仕事を辞めてでも駆けつける』と、言ってくれています」移植適合検査を受けてもらったことを機に、疎遠になりがちだった兄や弟との連絡が密になり、家族以外の人たちとも以前より濃密な関係を作るよう心掛けるようになりました。今では子供の同級生のお母さんにも病気のことを話すようになりました。病気のことを受け入れられるようになった今は、笑っても泣いても同じ1年ならば、笑って生きた方が良いと思えるようになったのです」有川さんの通院している病院では、定期的にハローワークの方が来て仕事の相談をする事が出来ます。それはとても患者さんにとって心強く、「今は無理でも、いつか移植を乗り越えて仕事を始める時はここで相談して頑張りたい!」と有川さんは話します。今回お話しされた3人は、病気を機に自分自身の新たな役割や、周囲との関係に新たに気づきました。病気とともに生きる彼らの言葉だからこそ、「今日を精一杯生きる」ことの大切さが伝わるのかもしれません。

骨髄増殖性腫瘍について https://www.mpn-info.net/p_patient/index01.html 
骨髄増殖性腫瘍患者・家族会(MPN-JAPAN)http://mpn-japan.org/

  1. Titmarsh G, Duncombe A, McMullin M, et al. How Common are Myeloproliferative Neoplasms? A Systematic Review and Meta-analysis. Am. J. of Hematol. 2014:1-7.
  2. Leukemia & Lymphoma Society. Polycythemia Vera Facts. June 2012.