「強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)は、病気の進行を止める方法が現在もまだわかっていない病気です」
そう語った銭谷有基(ぜにやゆうき)さんの場合は、最初は弱い痛みから始まり、徐々に強くなることで次第に歩行への影響が現れ、最終的には松葉杖や車椅子を使わざるを得ないレベルの痛みにまで発展していきました。銭谷さんは「(痛みで)歩けなくなっていくわけですから、精神的にも非常に辛いものがありました」と痛みとともに過ごした青春時代を振り返ります。
強直性脊椎炎とは
強直性脊椎炎は、多くの場合、40歳以下の若年層で発症する慢性炎症性疾患です。主に脊椎や仙腸関節に病変が生じ、初期の症状としては腰背部から臀部の痛みやこわばりが特徴です。進行すると脊椎が強直して日常動作や歩行が徐々に困難になるため、すぐに診断されないことで患者さんのQOL(生活のクオリティ)を著しく低下させることが分かっています。
診断名がつかない苦しさ
銭谷さんがその症状に気づいたのは、中学に入ったばかりの12歳頃でした。しかし、診断がついたのは高校に入学した15歳。結局、診断まで3年近くかかりました。「その間は周囲からも誤解されましたし、自分自身もなぜ痛いのか分からない。『なぜだ』とかなり苦しみました」
股関節に「ジンジン」とした痛みが出始めた時は、まだ成長痛だと思っていた銭谷さん。湿布を貼っても痛みが続いたことから、ご両親とも相談して整形外科を受診しました。しかし、症状だけからでは、診断名がつかなかったそうです。最終的に診断が確定されるまで「成長痛」、「椎間板ヘルニア」など、さまざまな疾患名を言われました。その中には「気持ちの問題です」と言われたこともあるそうです。「それにはやはり大変辛いものを感じました。そんなはずはないと、悔しさが非常に強かったです」と当時の想いを銭谷さんは淡々と話します。
病院を転々とした結果
正確に診断されないことで、有効な治療を受けることも出来ず、痛みに苦しんだ末、銭谷さんは覚えているだけでも病院を5、6回は変えたそうです。最終的には地元の大学附属病院を受診、レントゲン写真の股関節部分に普通とは若干異なる症状が見られるというところから、「強直性脊椎炎」であると確定診断を受けました。当時は、痛み止めを飲みながら日常生活を送るしか選択肢はないと医師から言われました。しかし今は治療法も複数登場しています。
自分の経験から若い人へ伝えたいこと
「私も3年近く病名がわからず、その期間非常に苦しみました。それは現在、強直性脊椎炎で苦しんでいる若い患者も同様かと思います。正しく診断されれば、そこから良い治療法にも、良い治療薬にも出会う可能性が出てきますから、まずは診断名が適切につく、そういった専門の医療機関を探すことが大事です」と銭谷さんは話します。 「また、患者会等で同じ病気を持っている方とたくさん交流して、その痛みや辛い気持ちを共有しあったりすることも大事です。
すぐに効くわけではありませんが、そういったコミュニケーションが気持ちの上でいい薬になり、お医者さんの治療に次ぐ、非常に効果のあるものだと思います。」
今の夢
銭谷さんに、今の夢をお聞きしました。「強直性脊椎炎の痛みに苦しんでいる若い患者に対して、その辛い痛みをなんとかサポートしてあげたい。何かしら若い人たちに貢献をしたい」瞳をまっすぐに熱い気持ちを打ち明けてくれました。