緑内障になってから見えてきたもの

視野が欠ける目の疾患、 緑内障を若くして発症し左の視力を失った患者さんの心の支え

Mar 08, 2018

「信号機を見つけるのに時間がかかることがあったんです。赤だったのに出ようとして、危うく轢かれかけたこともあったりして」

豊吉さんが緑内障と診断を受けたのは、20代の終わり頃のことでした。日常生活で「ものが見えづらくなっている」という感覚が強くなり眼科を受診しましたが、当初は乱視の可能性を指摘されただけでした。しかし、パソコンのモニターで見えない部分があることや、街中で車に轢かれそうになる経験をしたことで、再度眼科を受診したところ緑内障と診断を受けたのです。

当時の豊吉さんはまだ若く、診断名を告げられてもまったく知識がなかったことから、「いきなり言われてもわからない」という気持ちでした。また、緑内障の治療についても「目薬だったら多少サボっても大丈夫だろう」と軽く考えてしまい、結果、気がついたときには、症状がかなり進行し、視野の欠損が進んでいたといいます。

緑内障とは

最新の調査によると、緑内障は「40歳以上の20人に1人が罹患する」と言われている目の疾患です。見えない部分が出てきたり、見える範囲(視野)が狭くなるといった症状が一般的ですが、初期段階では見えているもう片方の目が補うため、症状を自覚しにくいことが知られています。視野障害(視野が欠ける状態)が進行した場合は、視力が低下したり、場合によっては失明することもあります

治療はあくまでも症状の進行を遅らせるためで、一度失った視野や視力を治療によって取り戻すことはできません。一般的に40代以上の疾患ととらえられがちですが、20代で発症する方や眼圧が正常でも緑内障になるタイプがあるため、定期的な眼科検診による早期発見と早期治療が重要です。

進行とともに増える日常生活の不便さ

豊吉さんの場合、緑内障が進行する過程で、だんだんと見えない部分が「白く」なってきて、その白い部分が増えてくるように感じたといいます。具体的には、街中を歩いている人の顔が見えない、本や雑誌を読んでいてもなかなか読み進めることができなくなる、絵を認識するのに時間がかかる、段差が見えず階段を降りるのがとても怖い、といった経験が日常生活の中で増えていきました。

「外食に行ったりすると、もうメニューの文字が見えなくなっちゃって。そういう風になってくるとだんだん何を食べても美味しくないし、面白くない」

治療を開始してからも、つまずいたり転ぶ回数が格段に増えるなど、疾患の進行は思いのほか早く、ことの深刻さがわかってきて落ち込むようになりました。当時は仕事や日常生活の中でストレスを感じることも多く、そのストレスが進行を早めてしまった可能性もあるのでは、と今では考えています。

絶望感を救った二つの支え

診断を受けてから10年近く経過した頃、豊吉さんは進行を遅らせるための手術を受けましたが、結果は思わしくなく、気持ちはさらに落ち込みました。

「絶望のどん底みたいな感じで。このままどんどん何も見えなくなって、世の中真っ白になって終わるんじゃないか」

そんなある日、落ち込んだ気持ちを奮い立たせ、藁をもつかむ思いで緑内障の患者団体である、緑内障フレンド・ネットワークの扉を叩きました。そこでは、同じ経験をした患者さん同士が、治療や日々の生活や仕事について話をしていました。「みんな同じ経験をしている。それなら現実を受け止めよう」。豊吉さんはそこから、手術の結果も含めた自分の病状を受け入れて、前向きになれたと話します。

患者団体を訪れて以降、気持ちも前向きになり、いろいろなことに再度興味を持てるようになった豊吉さん。以前から好きだった写真撮影に本腰を入れ始めます。今では、左目はかなり見えなくなっており、右目も視野が欠けて見えない部分が出てきてたため、ファインダーを覗いてもわかりにくいという状態ですが、最新のカメラ機材やパソコンのモニターの性能のおかげもあり、「工夫は絶対できるし、できることはたくさんある」と考えは前向きです。緑内障になり、手術を受けていなければ、ここまで本腰を入れてはいなかっただろう。写真を通して自分自身の心情を写し撮ったり、さまざまな人と出会ったり、とてもアクティブになったといいます。

豊吉さんは、緑内障と診断されてから、車も運転免許も手放すなど、診断後に諦めたものは、たくさんありました。しかしカメラは「なった後でないと手に入れられなかったであろうもののひとつ」といいます。治らないから症状も良くはならないし、この先どうするかと考えたら、一緒に暮らしていくしかない。そこで、悪くなることばかり考えず、悪い状態であることを売りにできるくらいに考えた方が良いのではないか。それが、いまもカメラのファインダーをのぞき続ける原動力になっています。

大切なことは早期発見と治療の継続

「絶対に大事なことは、早期発見」と豊吉さんは強調します。早期発見をしていれば、進行する前の状態で治療が開始でき、治療が早ければ悪化の度合いも遅くできる可能性が高いためです。また、「もし緑内障と診断を受けたとしても、症状がそれほど深刻ではないからと自己判断をしてこの疾患を軽くとらえたり、日常生活が忙しいなどの理由で治療をおろそかにすることは、絶対にしないでほしい」と強く訴えます。

「それでも緑内障になってしまったら…一人で悩むと良いことはないです。悪い方向に考えてしまう。そういう時のために患者団体というものがあると思うので、相談して欲しい。そのことが前向きに生きるということの一助になるかもしれませんから」

緑内障フレンド・ネットワーク http://www.gfnet.gr.jp/

https://www.eye-frail.jp/

加齢による目の機能低下「アイフレイル」について様々な情報が掲載されています。

参考文献

  1. 日本眼科学会 「目の病気 緑内障」