タスクフォースを通じて設定した新たな目標 「遠いところにあった患者さんの声を近くに」

Nov 26, 2021

患者さんの安全を確保するために行うトライアルモニタリング部の業務

薄井 知美

グローバル医薬品開発本部

私は大学院で生命情報学を専攻し、RNAの研究に携わっていました。そのため製薬会社への就職を希望し、新薬開発に関わる仕事を経て、2015年の11月にノバルティスに入社しました。

ノバルティスはパイプラインが非常に豊富で、多くの疾患領域の臨床試験に触れる機会が得られると考えたのが転職理由の1つです。

現在所属しているトライアルモニタリング部では、治験が倫理的かつ科学的に、そして適切な品質で実施されているか、また治験中に患者さんの安全性が確保されているかをモニタリングしています。そのために、病院の治験担当医師とのコミュニケーションや患者さんのカルテに目を通してのモニタリングや、治験に関わる病院スタッフへのトレーニングを行います。

実際の声を聞いてはじめてわかる 患者さんの思いをかたちに

ノバルティスのカルチャーであるICU(Inspired, Curious, Unbossed)をより深く理解するため、チームメンバーとのミーティングでICUについて考える機会はたびたびあります。しかしながら、ノバルティスの社員はみな、ICUを自然に実践できていると私は感じます。意識の高い社員が集まっているからこそ、ミーティングなどで改めて「ICUとは?」を突き詰めることで、より意識高くICUを体現できるのだと思います。

そのような社員と毎日接していると、お互いに刺激し合って新しいものが生み出されていく“Inspired(自らを鼓舞し互いを刺激し合う)”の瞬間をたびたび味わうことができます。

たとえば、ノバルティスでは、違った立場の人の意見を聞く姿勢も大切にされているので、ミーティングでは活発に意見が飛び交います。それが突飛なアイデアだとしても頭から否定はせず、まずは取り入れてみて、良し悪しを判断していこうという土壌があるのです。

また、部署の垣根を越えて有志が集まるタスクフォースチーム活動も、Inspiredが生まれる機会の1つです。特に、私が携わっているペイシェント・エンゲージメント活動は、開発部門にいると直接耳にする機会がない患者さんの声に触れることができ、大きな刺激を受けています。

「ペイシェント・エンゲージメント」は、近年、新薬開発で注目されている概念で、簡単にいうと「薬剤の開発の段階から患者さんとともに進めていく」という考え方です。従来、薬剤の開発は、規制当局、製薬会社および医師などの専門家の3者で治験が計画されており、治験を受ける患者さんの意見が入る余地はほとんどありませんでした。ところが、“よりよい医療の実現のために、患者さんの声を取り入れよう”という気運が高まり、ノバルティスの開発部門では、2017年に2017年にペイシェント・エンゲージメントのGlobalタスクフォースチームが発足し、2019年に日本のチームが発足しました。

具体的には、治験の開始前に治験実施計画書や同意説明文書の内容に対して患者さんの意見の収集と反映、実際に治験に参加された患者さんから治験中の負担等を確認するアンケートの実施、患者さんを含めて誰もが治験情報を閲覧できるようにするための治験情報の一般公開などが含まれます。意外に思われるかもしれませんが、治験の結果を患者さんに伝えることは、これまであまり実施されていませんでした。

このような活動を通じて患者さんの意見を伺ってみると、私たちの考え方がとても偏ったものであることに気づきました。開発部門の各部署から代表者が集まって、多面的に意見を集約できていたと自負していましたが、実際は異なり、立場が違うと見方がまったく違うということに気付かされました。

私たちが当然だと思ったことが実はそうでなかったり、患者さんに伝わっていると思っていたことが伝わっていなかったり……。患者さんの声がどこにも反映されていない中で、私たちは仕事をしていたのだと気づきました。私たちは、患者さんから想像を超えるほど大きな刺激を受けているとも言えます。

目指すは9割以上 患者さんへの治験のフィードバック

ペイシェント・エンゲージメント活動に携わったことで、新しい目標ができました。それは、スタートしたばかりで製薬業界の中でも特別視されているペイシェント・エンゲージメント活動を、当たり前のものにすることです。

たとえば、活動の一つとして、治験に参加された患者さんへの治験結果の共有があります。結果を共有することによって治験をより正しく理解して頂くことに繋がりますが、現時点ではおよそ7割の治験実施医療機関でしか患者さんへ治験結果を共有することができていません。その割合を今後3年間で、できればそれよりも早く、9割以上にしたいと考えています。そのために、どうすればより多くの患者さんに治験結果を共有することができるか、どのように治験実施医療機関と協働すれば改善に繋がるか、日々検討しています。残念ながら、全ての患者さんにとって必ずしも治験がプラスになるわけではありません。それでも、治験に参加していただいた患者さんに「参加してよかった」と感じていただけるようになればいいな、と思っています。

目標達成のためには、まずは社内でペイシェント・エンゲージメント活動の認知度を上げ、全社員が患者さんの声に耳を傾けるようになることが不可欠です。そのために、ワークショップや社内トレーニングを定期的に開催しています。

また、同じタスクフォースのグローバルチームメンバーが、自国のペイシェント・エンゲージメント事情を共有してくれるので参考にしながら、日本の文化・国民性を加味してカスタマイズすることもできます。

ペイシェント・エンゲージメント活動は始まったばかり。患者さんの声に耳を傾け、日々Inspireされることで、ゆくゆくは日本の医療に貢献できるのではないかと思っています。