未来のビジネスモデルに向けた
社内外でのトランスフォーメーション
田中慎一
オンコロジー事業本部
ビジネスエクセレンス統括部
データ&デジタルトランスフォーメーション部
私は2019年1月にノバルティスに入社し、データ&デジタルトランスフォーメーション部を設立しました。約3年間で社員1名から14名にまで拡大した、非常に勢いのある部門です。
データ&デジタルトランスフォーメーション部では、MR(医療情報担当者)と医師がフェイス・トゥ・フェイスで展開してきた従来の人海戦術を中心とした製薬会社のビジネスモデルを、データとデジタルの力でより効率的、かつ医師との新しいエンゲージメントの見据えたビジネスモデルに「トランスフォーメーション」させていく業務を担っています。
トランスフォーメーションには、2つの方向性があります。
1つは顧客に対してのトランスフォーメーションです。従来、MRが医局などを訪れて医師に直接伝えていた情報を、CRM(顧客関係管理)のシステムを活用してデジタルで配信し、医師が都合のよいタイミングで情報を入手・閲覧できるようにしています。
CRMを利用すると、医師がどの情報に、いつアクセスしたかが分析できるので、情報発信の仕方を改善できますし、AIを活用したアドバンスドアナリティクスの結果をMRやマーケティング部門と共有することで、実際のアポイントメントにつなげることもできます。
このトランスフォーメーションは、コロナ禍で病院への出入りや直接の面会が限られ、一方では病院のIT環境が改善されていく中、さらに求められるスタイルになってくるとも言えます。
もう1つは、社内組織のトランスフォーメーションです。ノバルティスでは、データ&デジタルのビジネスモデルを推進するための人材育成、システム構築を進めています。
その一環として、昨年度(2020年度)からデータサイエンティストをはじめとするデータ&デジタル周りのプロフェッショナルを積極的に採用しています。このようなプロフェッショナルは、製薬会社で働いた経験がない場合がほとんどですので、業界やノバルティスのパーパスやカルチャーに対しての理解を深めてもらう一方で、これまで製薬会社のビジネスモデルで業務に勤しんできたきた社員との融合を推進し、新しいケイパビリティやバリューを創出していくことが今後の課題になります。
データ&デジタルで製薬業界を変える
意志表明をしてノバルティスに転職
私は18歳のときに、日本に進出したばかりの世界的コーヒーチェーンで働き始め、ちょうど国内に次々と新店舗が増えていく時期に働いていました。
その後、いわゆる「ヒルズ族」として世間をにぎわせていたITベンチャーの勃興期に、そのなかの1企業に転職し、eコマース事業に携わりました。そして、別のITベンチャーに移って主にeコマースを担当したあと、MBA取得のため渡米しました。私のデータ&デジタルのバックグラウンドは、これらの経験で形作られました。
帰国後の2012年、縁あって大手の外資系製薬会社にポテンシャル採用で転職し、CEOのカバン持ちを1年間、業務として行いました。まさに付きっきりで、あらゆることを吸収し、研鑽に励んだ忘れることのできない1年間でした。
その後約8年間、国内外のいろいろな部署でさまざまな業務を経験しましたが、「これからの時代、ビジネスモデルは大きく変革されるだろう」「セールス&マーケティングが主流だったビジネスモデルから、データとデジタルの果たす役割がどんどん拡大していくだろう」という思いを強くしていました。
そんな中、ノバルティスには、データ&デジタルで製薬業界を変えていこうという意識を強く感じることができたため、転職を希望しました。
時期を同じくして、ノバルティスのグローバルCEOに、当時40代前半のヴァサント・ナラシンハン(Vasant Narasimhan)が就任したことも、転職の後押しになりました。業界3位の巨大企業のCEOに、そのような若さで就任するというニュースは、製薬業界でも大きな話題になりました。とりもなおさず、若い視点をもってデータ&デジタルという新しい領域に挑戦し、製薬業界を変えていこうという決意表明にほかならなかったからです。
好奇心を忘れず“夢を見る”ことが大切
ルールの中で柔軟な発想を忘れない
ICU(Inspired, Curious, Unbossed)は、若いグローバルCEOが発信する、ポジティブかつポップで、勢いのあるメッセージだと感じています。旧来のビジネスモデルに疑問を投げかけるメッセージだとも言えると思います。
ICUの中で、私が特に好きな言葉はCurious(好奇心を持つ)です。製薬業界に限らず、世の中のあらゆる業界でデータ&デジタルへのトランスフォーメーションが進んでいます。だからこそ、常に社外の動向にも目を向け、新しいものを貪欲に取り入れて、自分たちの会社に組み込んでいく姿勢が必要になります。そのためには、私自身やチームのメンバーが、「こんなことができるんじゃないか」と“夢を見る”ことが大切だと本当に思います。
製薬業界には、私が歩んできた飲食業界やIT業界とは異なり、国の定めた厳密なルールに従ってビジネスをしていかなければならない難しさがあります。そのため、ともするとCuriousという視点を簡単に失ってしまうリスクがあると思います。だからこそ一層、好奇心をもって、柔軟な発想で物事に取り組んでいく姿勢を忘れないように、社員を鼓舞していかなければなりません。
そういった“夢”が結実した1つの事例は、新しい職種であるDEL(デル)の導入です。DELは「デジタル・エンゲージメント・リエゾン(Digital Engagement Liaison)」の略で、デジタルの力を100%使って、顧客に価値を提供していく役割を担っています。
ノバルティスでは、データ&デジタルトランスフォーメーション部に複数名のMRを異動させ、コロナ禍の影響もあって半年以上できなくなっていた多くの医師とのインタラクションを、約20%回復させることに成功しました。
データ&デジタルのドリブンカンパニーとして
「日本をよくする」ために働く
ノバルティスが製薬業界で、「データ&デジタルのドリブンカンパニー」になるべく先陣を切ろうとしていることは非常に誇りに思いますし、その中心で業務を推進できていることは、私のやりがいにもなっています。
顧客に対しては、データ&デジタルを使って必要な情報を適時に提供し、カスタマーエクスペリエンスを上げていくこと。そして社内では、そのための仕組みとインフラを確実に構築すること。この2つを追求してはじめて、「データ&デジタルのドリブンカンパニー」になることができるのだと思っています。
そのためには、密なコミュニケーションが不可欠です。ノバルティスのようなグローバル企業では、CRMのシステムもグローバルが一元管理していますので、グローバルの意向を日本で働く多くの人たちに、ときには意訳しながら、ときにはパイロット版や動画などを作成して目に見える形で提示しながら、正しく伝える努力をしなければ、グローバルと日本の足並みが揃わないのです。
私は、コーヒーチェーンで働いていたとき、温かいコーヒーとスタッフとの触れあいを通じて、生きる意味を見つけることができた人、バリスタとして仕事をすることで働く楽しさや人生の目的を再発見した人をたくさん見てきました。
未来を見据え、日本をよりよくする社会的意義を認識してビジネスを展開する企業には、そこで働く側にも、商品やサービスを利用する側にも、関わる人をエンパワーメントするような力があると思っています。
ノバルティスが「データ&デジタルのドリブンカンパニー」になることが、よりよい日本の社会を実現することにも通じると信じて、日々働いています。